国民民主党が掲げる所得税の基礎控除拡大:その立法趣旨と意義

所得税の基礎控除は、日本の税制において納税者の最低限の生活を保障し、税負担の公平性を図る重要な制度です。この基礎控除について、国民民主党は近年、積極的な見直しを提案しており、特に「年収の壁」対策として注目を集めています。本記事では、基礎控除の概要とその立法趣旨を解説しつつ、国民民主党の政策との関連性を探ります。

基礎控除とは?その基本的な役割

基礎控除は、所得税法に基づき、すべての納税者に適用される所得控除で、所得金額から一定額を差し引くことで課税対象となる所得を減らします。2025年現在の基礎控除額は以下の通りです(2020年税制改正以降):

  • 合計所得金額2,400万円以下:48万円
  • 合計所得金額2,400万円超~2,450万円:32万円
  • 合計所得金額2,450万円超~2,500万円:16万円
  • 合計所得金額2,500万円超:0円

この制度の立法趣旨は、以下の3点に集約されます:

  1. 生活保障:憲法25条の生存権に基づき、最低限の生活費を非課税とすることで、納税者の生活を支える。
  2. 税負担の公平性:低所得者の税負担を軽減し、累進課税制度における負担の均衡を図る。
  3. 税制の簡素化:所得や属性に関係なく一律に適用することで、税制をわかりやすくし、公平性を保つ。

国民民主党の基礎控除拡大提案

国民民主党は、2024年の衆院選や2025年の参院選で、「手取りを増やす」政策の一環として、基礎控除と給与所得控除の合計額を現行の103万円から178万円に引き上げることを公約に掲げました。この提案の背景には、以下の課題への対応があります:

1. 「年収の壁」問題の解消

「103万円の壁」とは、給与所得者が所得税の課税対象となる所得の閾値(基礎控除48万円+給与所得控除55万円)を指します。この壁を超えると所得税が発生するため、パートタイム労働者などが労働時間を抑える傾向があり、労働供給の制約や人手不足の一因となっています。国民民主党は、基礎控除等の合計を178万円に引き上げることで、この壁を緩和し、労働参加を促進しようとしています。

2. 物価高への対応と実質賃金の向上

近年、物価上昇が続き、実質賃金が低下する中、国民民主党は基礎控除の引き上げを「制度のインフレ調整」として位置づけています。過去30年間、基礎控除額がほとんど見直されてこなかった一方、最低賃金は約78%上昇しました。この乖離を埋めるため、国民民主党は最低賃金の上昇率を基準に178万円という金額を提案。物価高による生活費増加を考慮し、納税者の手取りを増やすことで消費を喚起し、経済の好循環を目指しています。

3. ブラケット・クリープへの対策

賃金上昇に伴い、名目所得が増えると、より高い税率が適用される「ブラケット・クリープ」が発生し、実質的な税負担が増加します。国民民主党は、基礎控除の引き上げにより、低・中所得層の税負担を軽減し、賃金上昇の恩恵を最大化しようとしています。

立法趣旨と国民民主党の政策の接点

国民民主党の基礎控除拡大案は、従来の基礎控除の立法趣旨である「生活保障」「公平性」「簡素化」をさらに強化するものです。特に以下の点で、従来の趣旨を現代の経済状況に適応させる意図が見られます:

  • 生活保障の拡充:物価高や最低賃金の上昇を反映し、最低限の生活費をカバーする控除額を見直すことで、低所得層の生活をより強力に支える。
  • 公平性の追求:低・中所得層に重点を置いた減税により、所得格差の是正を目指す。ただし、高所得者にも一律適用される場合、減税額が大きくなる点は議論の余地があります。
  • 簡素化への挑戦:国民民主党は、複雑な所得制限を設けず一律の控除額引き上げを主張し、税制の簡素さを維持しようとしています。

課題と展望

国民民主党の提案は、与党との協議で一部進展が見られたものの、2025年2月時点で合意には至っていません。与党案では、年収850万円以下を対象に基礎控除を段階的に上乗せし、課税最低限を160万円に引き上げる案が提示されましたが、国民民主党は所得制限を認めず、178万円への一律引き上げを主張したため、協議は破談となりました。この背景には、国民民主党案が7~8兆円規模の税収減を招くとの試算があり、財源確保が大きな課題となっています。

また、与党案では制度が複雑化する点や、時限措置による一時的な減税に留まる点が批判されており、国民民主党の「恒久的な制度見直し」の主張は、構造的な課題解決への必要性を浮き彫りにしています。

まとめ

国民民主党の基礎控除引き上げ案は、所得税の基礎控除が持つ「生活保障」「公平性」「簡素化」という立法趣旨を現代の経済環境に適応させる試みです。「年収の壁」の解消、物価高への対応、ブラケット・クリープの緩和を通じて、国民の手取りを増やし、消費拡大と経済活性化を目指すこの政策は、低・中所得層の生活を支える可能性を秘めています。一方で、財源問題や高所得者への恩恵の大きさなど、課題も多く、与党との調整が今後の焦点となるでしょう。

国民民主党の提案が実現すれば、税制のあり方を見直す契機となり、働く人々の生活に実質的な変化をもたらすかもしれません。引き続き、議論の進展に注目していきたいと思います。

Manware

新卒で個人会計事務所に就職し、その後BIG4税理士法人に転職し現在も勤務しています。BIG4税理士法人についてや税理士試験その他雑記を投稿してます。

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